唐突な長距離ウォーキングへの欲求
去る2023年の年末、私は、唐突に「歩きたい」という欲求に駆られました。
「散歩なんか普通だろ、とっととやれ」という感想を持たれた方も多いと思いますが、いやいや、そんなレベルの「歩きたい」ではなかったのです。より強力な、いわば「自分の限界を超えるくらいの長距離を歩きたい」という欲求でした。
なぜそんなことを思ったのか? それは、この世の中が余りにもしんどすぎるため1、いっそ限界を越えたらどうなるんだろう(見える世界が変わったりするんだろうか?)という知的好奇心によるものです。「どうせ生きているだけで心がキュッと絞られるようなことが多いし、もう握りつぶす勢いでやってみたらどうか」的なメンヘラ特有の精神ムーブ2であることは否めませんが、とにかく、生まれた衝動が冷めぬうちに仲間内からも参加者を募ったところ、無事に数人で長距離ウォーキングを決行することになりました。私と同様、友人らも人生への疲れと救済を求めていたのかもしれません。
この記事では、その計画から実行までの経緯と結果と、歩いている際の映像をずんだもん動画に編集した事例についてご紹介します。
計画と準備
やるぞと決めたら計画が必要です。参加者の帰省などの都合もあり、決行日は12月30日と1月2日の合計2日になりました。場所も同様の理由で12月30日を名古屋〜三重、1月2日を高山〜下呂とすることが決まり、それぞれ合計50kmほどの旅路となります。人間の歩行速度はおおよそ時速4kmほどと言われているので、まあ確実に一日中歩く羽目になるでしょう。特に2日目は文字通り山の間の道を縫うように歩いていくことになり、ストリートビュー曰く、途中の道は歩道すらない3ために迂回も必要で、年始のクソ寒い中で自然と対決することになるのは必至です。が、この辛さこそまさに追い求めていたもの! テンションはグングン上がります。
ルートと日時が決まったので、歩くための装備も買いました。具体的にはズボンに上着、シューズなど4。厳密には30日に向けて適当な装備を揃えて本番を迎えたところ、不十分であったことが発覚し、2日のために慌てて追加購入へ走ったというオチなのですが、いずれにせよ防寒対策は一通り揃ったはずです。荷物を揃えてあとは本番を迎えるだけとなったところで、ふと、僕の頭に「折角これだけ歩くんだから、ただ歩くだけだと勿体ないのでは?」という懸念が浮かびました。
これだけの長距離を歩くのです、経験や知見が得られるのはもちろんのこと、仲間との絆も一層深まるでしょう。しかし、このままでは所謂「内輪ネタ」だけで終わってしまう可能性があります。合計100km歩いたにも関わらず「あの時は良かったなァ」という酒の肴にしかならないのだとしたら、名状しがたいレベルでファッキン無駄です。それを回避するためにも、客観的にも分かりやすい形――すなわち写真や映像など――にしたいという思いが強まりました。
歩きながら写真を撮るのは当然考えられますが、カメラやスマホをずっと持ったまま歩くのは大変そうですし、転倒など事故リスクも無視できません。また、いいスポットやタイミングを見つけて部分的に撮影・記録するだけでは普通の旅行と大差ないわけで、今回の長距離ウォーキングを活かせているとも言えません。じゃあどうするか? としばらく考えた結果「アクションカメラで歩いている映像を常時記録し共有したら、客観的に見ても面白いものが生まれるんじゃないか」という結論が導かれ、専用のカメラキットを買うことにしました。かつ、垂れ流すだけではそれこそ内輪ネタになってしまうので、今話題のずんだもん5のキャラを利用した解説風VLOG動画にしよう、とも決めました。
そんなわけで、アクションカメラの選定を進めます。真っ先に検討したのはGoProでしたが、とにかく発熱に弱く長時間撮影に向かない6という話を友人やレビューで耳にしたため見送り。次にDJI Osmo Action 4を考えましたが、値段に対しての利用頻度を考えたときにすごく悩んでしまい、イマイチ乗り切れず。
というのも、アクションカメラの用途なんて登山やスポーツくらいしかないわけで、しかもきれいな絵を得るなら一眼を使った方がいいのは自明です。つまり、ユースケースがかなり限定されるということになります。対してOsmo Action 4の価格は、スタンダードコンボで(当時)58000円ほど。ここにSDや器具などを諸々足したら70000円くらい。面白みがそんなにない割にコスパが悪い。
じゃあどうするのかと唸りながら調べていると、Insta360 X3というカメラを発見。これもロッド入りセットで70000円以上と高いのですが、いわゆる360度映像が手軽に撮影できる代物で、そこがOsmo Action 4と大きく異なる点でした。本体の前背面にレンズが付いているので、片側だけ使えば普通のアクションカメラとしても利用できます。
「普通のカメラではどう頑張っても撮れない映像が撮れる」という明確な価値がある点が気に入り、レンズカバーやSD、リュックに取り付けるマウントと共に購入しました。結果的にOsmo Action 4よりも高い買い物になったものの、360度映像の目新しさや面白さのおかげで不満はなし。人間の感情は難しい7。
防寒装備とカメラが揃ったので、あとは本番です。
本番と撮影、想定外のあれこれ
本番がどうだったかは実際に作った映像を観ていただくとして、当日はいろいろありました。
一日目(一回目)は年末に名古屋から三重を歩く50kmルートでしたが、名古屋を出てしばらくのところで友人が早くも心折れてギブアップ。線路沿いを歩いていたため、隣を走る快速の電車と自分たちの対比に耐えられなくなったとか。現代人らしい結末ですね8。
しかしルートが変わって合計30kmほどになったものの、それでも終わり際に自分の足(特に足の裏)が相当痛くなったのは驚きました。部活で運動をしていた学生の頃だったらあり得なかっただろうなと懐かしみつつ、年老いた自分を実感です。学生の頃と違うのは、辛いときに酒を入れることで人体をバグらせて無理やり歩くというハックが使えた点でしょうか。老獪の本領発揮と言えるでしょう。
とはいえ帰宅時には魂が抜けていたので、酒は長続きしません。一回目を終えた後、根本解決のために装備を強化しました。特に靴下は五本指タイプのものを採用し、厚みにも気を配ります。これが薄いか暑いかが生死を分けると言っても過言ではないと思います、いや本当に。アスファルトを歩くならシューズよりも靴下が大事です。地面が固いので。
そして二日目(二回目)は年始に高山から下呂までを歩く50kmルートでしたが、全員に気合と理不尽耐性が備わっていたため9、出だしからスムーズに進みました。早朝にホテルを出て以降、小さな休憩だけを挟みつつ山道を歩きます。隣には国道と線路が伸びており、自動車と電車という鉄の塊がビュンビュン走っていますが気にしません。ただ、車しか通れないトンネルや歩道のない区間があったのは大変でした。国道41号線は人民に優しくない10。
そうした区間を迂回するために峠を越える羽目になったのですが、マメが潰れたり、野生動物と遭遇したりとあれこれ大変。夕方を過ぎると体力も限界を突破し、あと一駅分というところで命の危機を感じて中断という最期になってしまったのが悔しい限りでした。
ただ、一駅を残したとはいえ、きっちり50kmは歩けたのが良かったです。話として面白いし、次回以降の自信にもつながりますからね。
VLOG動画編集
そんなこんなで七難八苦を超え、二回分の映像が手に入った(というより生み出した)ので、予定通り長距離ウォーキングのずんだもん動画を作り始めます。
最初は学生時代に使っていたおかげで操作に慣れているAviUtlを使おうと思っていたのですが、さすがに設計も古いし書き出し速度も遅いわけです。なので折角だからと、令和の新しいワークフローに慣れるべく人気のDavinci Resolveで制作することに。
さてどうやって作ろうかと悩んでいたところ、世の中には本当にすごい方がいらっしゃるようで、りぞりぷと11というFOSSのスクリプトを使えば簡単にずんだもんのモーションなどを設定して書き出しができることが分かりました。中身を見てみるとQtやらLuaやらで器用に連携が組まれていて、情熱を感じる実装です。
ありがたく使わせていただいたのですが、ずんだもん・めたんのキャラ挙動に必要なDavinci ResolveのFusionがすこぶる重く、メモリ64GBを積んだ母艦機でもメモリ不足で動作が不安定になる始末。Fusion側に改良の余地は大いにあると思う一方、そもDavinciはこういったキャラを動かしたりといった用途には向いていないのかもしれません。
ただ、メモリが足りている範囲においては無償版でも極めて高速に書き出せたので、いくつかのセクションに分けて順番に編集と中間ファイルへの書き出しを繰り返すことでメモリ不足を回避します。若干不便なものの、メモリを96~128GB確保できないマシンの場合はこうすると確実です。
Insta360で録画した映像はInsta360 Studioで一旦画角調整をしてから一旦書き出し、それを取り込んで編集に使いました。こうすると撮影時にカメラの向きが多少ズレていても、割といい感じの向きの映像が得られます。あまりにもずらしすぎると補正が間に合わず変な書き出し結果になってしまうので、そこのところは要注意。
BGMはAppSumo経由で契約していたMelodie Music12を採用。効果音はCreative Commonsのライセンスで音源を配布してくださっているOtoLogic13を利用しました。BGMもCreative Commonsのもので揃えることができたらキレイなんですが、作曲の労力も大きいでしょうしなかなか難しそうです。
なお、Melodie自体は(サイト自体にやや癖があるものの)ロイヤリティフリーないい曲がある便利なサービスなので、その点に文句はありません。
動画はまず一日目の名古屋三重編から作成し、続く高山下呂編の動画では友人のフィードバックを基にタイムラプス風の表現も取り入れました。ただ、都合の良い部分だけを使えば良いカットとは違い、友人の顔など隠さなければならない部分もあるためモザイク処理がやや大変です14。
完成した動画
YouTube版
こうして艱難辛苦の果てに完成した動画を以下に掲載します。ぜひご覧ください。
独自配信版
また、政治的信条等でYouTubeが利用できない方向けに、以下より独自配信(bunny.netのCDN経由)も提供しています。不快な動画のサジェスト表示もないので実質YouTubeの上位互換です15。多分。
ざっくりとした感想
Davinci Resolveの使い方や得意・不得意分野などを実際に体験できたのも含め、満足度の高いウォーキングでした。
そうは言っても動画編集は大変で、一本の動画を作るのに(気力を蓄える期間も込みで)二週間ほどかかってしまった点が反省点です。いざやってみると、日本で跋扈しているずんだもん動画職人の方々はすごかったんだなと実感します。まあ、お金を生み出す仕事として割り切られるのならそれもいいのかもしれませんが、あくまで趣味としてやるにはモチベーション面でも大変そうです。
とはいえツール選定を変えてみるなど、もっと作りやすくできる余地はかなりあります。一方で気力については数をこなすしかないというか、何本も作っていれば慣れてくる部分もあるのでしょうね。
ウォーキングについては、一日頑張るだけで十分いい映像が撮れるものです。が、舐めてかからず、防寒や痛み対策はしっかり準備しておくことが大事と思います。
だいぶ雑な記事になってしまいましたが、長距離ウォーキングや動画編集の魅力が少しでも伝われば幸いです。
別に仕事が苦しいからとかそういうわけではなく、世の中全体への不満としての「しんどい」です。 ↩︎
心を病んだ経験がある方であれば、一種の破滅願望じみた衝動性についてご理解いただけるかと思います。 ↩︎
「人民の国道に歩道がないとは!」と一瞬だけ義憤を感じましたが、冷静に考えて高山下呂間を歩いていく地元民なんかいるわけないので、メンテナンスコストを考えれば極めて合理的な判断と思います。それでも歩道は欲しいですが……。 ↩︎
詳細は動画をご覧ください。 ↩︎
エアコンや洗濯機といった成熟しきった家電に謎機能を追加したがるメーカーの気持ちが分かりますね。 ↩︎
彼は政治の話をするのが好きなんですが、なればこそ線路沿いを50km歩く程度の胆力は持っていて欲しかった。泥臭さとはそういうものなのでは。 ↩︎
元旦に高山へ前入りする時点で面構えが違います。 ↩︎
徒歩の需要がない? ハハァ…… ↩︎
自動トラッキングもありますが、あまりアテになりませんでした。 ↩︎
大した額ではないのですが、実費がかかっています。万が一予算オーバーで閲覧不能になっている場合はYouTubeをご利用ください。 ↩︎