前置き
今後を見極める意味で購入した『創の軌跡』
去年の七月、PS Storeで買って放置していた閃の軌跡I:改をたまたまプレイして以来、私は日本ファルコムのファンになりました。
そして、続けて閃の軌跡IIIをプレイし終えたところで、これはIVをプレイする前に過去作全部やらないとダメなヤツだなと察知し、約一年かけて4空の軌跡三部作/零・碧の軌跡をプレイして、その後に閃の軌跡IVをプレイし終えました。
我ながらよくやったと思いますし、過去作を全てプレイしたことで、一ファンとして作品を語る上での自信にもなりました。例えば、去年に私が閃の軌跡I/IIをレビューした際には過去作知識が全く無かったために、当時存在していた過去作との比較による批判は理解ができなかったわけです。今であればそういった批判も理解できますし、その上で再度述べさせてもらうと、閃の軌跡I/IIについての個人的な評価は全く変わっていません。良作だと思っています。I/IIについては。
空三部作、零・碧も本当に良い作品でした。私は特に零・碧を推したい。テーマ性が極めて明確で、プレイした後でも胸に残るものがあります。特に零の終盤、古戦場に向かうシーケンスの震えるほどカッコいいこと!5 リアルタイムでプレイしていた時は深夜だったのですが、テンションが上がり切ってしまい、結局朝方までプレイしたのを覚えています。
軌跡シリーズは本当に良作揃いなんですよ。再度書きますが『プレイ後に残るものがある』のです。テーマ性が描き出した主人公らの葛藤が、プレイヤーの心に欠片を残してくれるのです。
プレイヤーに消費されるだけで(あるいは、それのみを意図して開発されて)一ヶ月後には内容をさっぱり忘れられる作品とは違います6。
……と、ここまで褒めちぎっていて何なのですが、上記文章で私が褒めていない作品があることにお気づきかと思います。そう、閃の軌跡III/IVですね。
散々言われていることですが、もうはっきり書きます。閃の軌跡III/IVについては、ファンである私も評価できませんでした。特にIVについては、褒めるところがほとんどありません。
まあ、IIIはまだ良かった。新しいキャラと共に、主人公であるリィンの先が語られたわけですから。グラフィックも向上して、新鮮味もあって、まだ褒める点もありました。
IVはダメです。(好きな方がいたら申し訳ないのですが)空・零・碧・閃の中で唯一、ラストで全く感動できない作品でした。IIIから引っ張った展開で目新しさがほとんどなく、ラストで不要・冗長なエンディング分岐をさせてみたり7、分かりにくい謎の当て字を多用してみたり8、何度も同じ言い回しを使ってみたり9、悪い点は枚挙に暇がありません。
終盤のミシュラムでの絆イベントもコピペレベルで、見ていて辛いものがありました。そりゃ怒る人も出るでしょうと。
ラストに辿りつく頃には疲労困憊。挙げ句の果てに、残念バッドエンドです、トゥルーエンドを見るには追加でモンスター倒してラスボス再攻略してください、と言われてコントローラーを投げそうになりましたね。あれは一種のトラウマです。
そんな事情もあり、IVのプレイ後、直前にプレイしていた零・碧の出来が極めて良かっただけに、私の中で一種の疑念が生まれていました。曰く、「ファルコムは、今後どういう舵をきるのか?」と。
私はファルコムの思想はすごく好きです。音楽に力を入れていて、プレイヤーに一定の利用許可を出すほどの胆力もある。ゲームの起動時に邪悪で不快な『警告』メッセージ10を出すこともない。ゲームの細かな機能、UXも悪くない。GOG.comのような、プレイヤーの自由を尊重するDRMフリーのストアにもPC移植版をリリースしている11。こちらのことをよく見てくれているなと感じます。だから海外での人気が高いのでしょう。
しかし、シナリオを重視するRPGと謳っているからには、相応の質が必要です。伴っていなければ、『ゲーム』としてはやはり失敗ですから。
つまるところ、IVの路線で今後続けるつもりであれば、購入の継続も厳しいなと本能的に感じてしまったわけです。
そのため、今後もイースシリーズ含めファルコム製品の購入を継続するか――すなわち、ファルコムを応援し続けるかを見極める試金石として、今作『創の軌跡』を購入してプレイすることにしました。
前置きが長くなってしまいました。これらの事情を踏まえた上で、ここから『創の軌跡』についての感想と評価・レビューを述べていきます。
ご注意
発売されて間もないこともあり、ネタバレは最低限に押さえていますが、感想(批評)の都合上触れざるを得ない点がありますので、ネタバレが気になる方はクリア後の閲覧を推奨します。
ネタバレリスクを認識した上で、読みたい方はread more。
以下、感想及び評価・レビューエリアです!
では、以下につらつらと書いていきます。
感想及び評価・レビューは網羅性を高めるために、
- 『総評』
- 『パッケージデザイン』
- 『グラフィック』
- 『サウンド』
- 『快適さ』
- 『戦闘』
- 『キャラクター』
- 『シナリオ・テーマ性』
- 『ボリューム』
- 『雑感』
の軸で述べます。
なお、これらはあくまで個人の感想です。いろいろ書いていますが、あまり重く受け止めすぎないようにしてください。
1. 総評
ざっくり書くと、 面白かったですし、満足できました 。特にCルートが本当に良かった。
ちなみに、クリアまでにかかった時間はおよそ45時間。
具体的にどう面白かったのかについて述べると、まずテーマ性。これがはっきりしていたのが高評価ポイントです。
今作のテーマは恐らく「アイデンティティ」だと思うのですが、『リィンルート』『ロイドルート』『Cルート』のいずれにおいても、このテーマを中心に話が展開します。
これがよくできていて、各ルートはあくまで独立しており、そこで描かれる内容はルートの主人公ごとに異なるのです。
安直に一つの事件を三分割、 というわけではない ので、飽きずに楽しめました。具体的なシナリオ・テーマ性については後述します。
また、長さも丁度良かった。何より、今作だけでしっかり物語が完結している点は一番評価すべきポイントかもしれません。 そう、今作は一本で完結するんです! 閃の軌跡は驚異の四部作12だったわけで、本作はファンディスクに近いとはいえ、一本で起承転結を描ききったのは称賛に値します。これは本当に嬉しい。経済的要素よりも、結果的にシナリオの濃度・完成度が高まっているという点において。
キャラクターについても述べておくと、『Cルート』の新キャラであるC、スウィン、ナーディア、ラピスは、キャラ作りのお手本と言ってもいいくらいによく造形されていました。外見デザインはもちろん、何と言ってもシナリオ中でのキャラの立ち方がいい。キャラクター達が生き生きとしているのです。もちろん、人数が少ないということもあるのでしょうが、各キャラの個性を存分に活かした展開には舌を巻きました。具体的な内容は後述します。
サウンドについては、いつも通り、安全安心のファルコム品質です。miniサントラにも入っていましたが『SWORD OF SWORDS』13は耳に残りますね。個人的に好みです。
総評のまとめとして、 今後も軌跡の購入を続けることを決定する程度にはよくできている 、と言えます。
あまり総評を長くしてしまっても仕方がないので、その他については各章で後述します。
2. パッケージデザイン
今回、私はAmazonでPlatinum マイスターBOXを予約して購入しました。そのため、パッケージデザインについても若干述べておこうと思います。
マイスターBOXの箱について
思っていたより一回り小さかったかな、くらい。個人的には満足の出来でした。まあ、特典の箱です。中には仕切りが入っていて底上げされています。隠したい小物があれば入れておくとよいかも知れません。
ディスクパッケージについて
ググっていただければパッケージ絵は出ると思うのですが、普通にプレイしてクリアした段階では、パッケージ絵のキャラクターは登場しません。
クリア後の無限回廊最奥にいるボスを倒すと、当該キャラクターが登場するエピソードが開放されます(確認済み)。内容については触れません。
個人的には、パッケージ絵にそんなキャラを採用するのはどうなんだ……と思わなくもないです。デザイン自体が悪いという訳ではないですが。
あ、特典として付いてきたminiサントラのケースはすごく安っぽかったです。同じく特典のVOCAL COLLECTIONは青パッケージでそこそこだっただけに、そこが若干気になりました。
3. グラフィック
基本的に閃の軌跡III/IVと変わらずで、可もなく不可もなく、でしょうか。ただ、イベントシーンのモーションは良かったです。
特に、(PVにもあった)ノエルがバイクで突撃してくるシーンや、ラピスの救出シーン、スウィンとナーディアの共闘シーンの動きはかなり自然でした。
滑らかな動きのシーン時は、メッセージ部分が完全に透過になるようです。没入感が高まって良いと思います。
また、クリア後にちらっと綺麗なCGシーンが流れますが、噂によると次作以降で用いられる新ゲームエンジンの映像だとか。明らかに画質は向上しているようです14。真偽は分かりませんが、少し期待しています。
個人的にはそこよりもシナリオ・テーマに力を入れてくれと思いますが、株主にも突っ込まれていたらそりゃ対応せざるを得ないですよね15。Vulkanだのアレコレ複雑化する現代のグラフィックスを前に、決して大規模ではないファルコムがゲームエンジン開発に乗り出すのは得策でない気もするのですが16、PS4/PS5の決め打ちで開発すれば何とかなるんでしょうか。専門分野でないので分かりませんが。
あと、一応触れておくと……リーシャの格好はやっぱり……『性』を喚起させますね17。見た人の九割が「あり得ねえだろ」と突っ込んでいると思いますが。
個人的にはノエルが一番自然体な『性』を醸し出していたと感じました。レベルアップ時の振り向きは狙ってますね。走る後ろ姿はもはやアレゲー18。
4. サウンド
サウンドについては章を設けてみたものの、総評に書いた内容で終わりというか……「いつも通り安定してるね!」としか言えないんですよね。
そもそも私自体が音楽に対してあまり興味がない19ので、語ることができないのです。ファルコムサウンドの思想は好きですけどね! ちなみに、過去作含めた一番のお気に入りは『Get Over The Barrier!』です。
強いて言うなら、ノエルの戦闘ボイスが気になりました。痰が出る手前くらいのくぐもった声で、私がボイス収録担当だったら再録をお願いするレベルです。逆に言うとボイスで不自然だと感じたのはそれくらいで、チラホラと見かけるユウナのボイス問題については、(確かにテンションは低いなと思いましたが)私はさほど気になりませんでした。
あとは、SE再生の不具合について述べます。
再現条件がイマイチ不明なんですが、突然SEの重なりが再生されなくなるバグに二度ほど遭遇しました。つまり、効果音Aが鳴っているときに効果音Bを鳴らすと、効果音Aしか聞こえなくなるバグです。
これ、記憶にある限り閃の軌跡時代から存在していて、イベント中にPS4がスタンバイになると発生しやすかった気もします(体感)。対処は簡単で、ゲームを立ち上げ直せば解決するので致命的ではないのですが、ラスダンで発生した時は若干興を削がれた感はありました。
次作以降は新エンジンになるということで、音響周りも当然変更されると思うのですが、解決されていると嬉しいですね。
5. 快適さ
移植版に載っていた倍速モードが実装されたおかげで、長いダンジョンでもストレスなく移動できるようになりました。これは高評価です。
……といっても、割と終盤になるまで存在に気が付かなったんですけどね。たまたまパッドに指が触れて倍速モードになって初めて気づきました。便利だと思います。ちゃんと操作説明は見ましょう。
といっても、少なくとも非ダンジョンでは□ボタンで手軽にワープ移動できるので20、倍速にしなくても特に困るところはありませんでしたが。
戦闘もかなり快適で、敵の弱点アーツが表示されるようになったのは改良だと思います。いちいち敵を調べなくてもよいので。
そういえば、余っていないクオーツも所持リストに表示されるようになったのは、最初こそ戸惑ったものの、慣れると地味に便利な機能ですね。
強いて言うなら、一部イベントのロードが遅いのが気にかかりました。数シーンイベントが流れる→ロード→数シーンイベント……となっていたのがあったので、これが改善されると没入感が増すかなと。イベントが流れ始めたら終わるまでノンストップにして欲しいかな。いろいろと制約があるだろうので難しいとは思いますが。PS5になったら改善するんですかね?
6. 戦闘
快適さの章でも書きましたが、相手の弱点アーツが出るようになったのは改良です。何も考えずにアーツを選べるので、便利でした。
バランスについてですが、私はNORMALでプレイして、一度もレベルを落とさずに済みました。というか、全滅に追い込まれたのもたった二、三回だった気がします。いつもだと一、二回はレベルを落とすケースがあるのですが、今作はバランスが取れていたのか、ずっとNORMALで楽しめました。これは間違いなく良いことですね。私みたいにNORMALで遊ぶプレイヤーは難しさを求めていないと思うので。HARD以上はしっかり難しくて構わないと思うのですが。
ちなみに、目玉システムであるヴァリアント・レイジはめちゃめちゃ強いです。特に後半、無限回廊でアサルトゲージを増やしておくと、戦闘中に連発できるので強敵を倒す時に重宝します。一回の使用でBPも2回復するので、被ダメージ軽減オーダーと組み合わせると敵なしです。
あと、無限回廊のスクランブルレイドは……イマイチ存在感が無かったかな。難易度も全く難しくないです。
逆に試練の扉は割と難易度が高かった気がします。特に二人対二人の戦闘は結構キツいです。考えて手を打っていかないと撃滅されます。そして試練の扉で倒れると、有無を言わさずロードが入って扉の前に戻されるので、そこだけちょっと不満ですね。他の戦闘と同様にリトライ選択が欲しかった。
その他のシステムはほとんど閃と変わらずですね。次回作以降は大きくシステムが変わるらしいので、名残惜しい気もしますが、ちょっと期待です21。
7. キャラクター
総評でも書きましたが、『Cルート』に出てくる新キャラ全員、とても良く造形されていたと感じました。
具体的な例を挙げると、中盤、目玉であるラピスの救出シーンもいいのですが、個人的にはその後の、道すがら救出のことを嬉しそうに何度も語るラピスの会話が特に好みでした。だって、現実でも絶対にあるじゃないですか、小さい子が嬉しかったことを何度も親に報告するみたいなことって。故に読んでいて微笑ましいと言うか、ああ、ちゃんとキャラが現実同様に生きているのだなと実感できて、親しみが持てました。そういう細かな部分が上手いのですね。
スウィン、ナーディアについても、作中(本シナリオ)ではその出自が明確に描かれないのですが、それでも「あれ、結局このキャラは何なんだっけ」と ならなかった のが地味に凄い。つまり、プレイ中に与えられる情報が自然で、過不足ないということを意味しています。設定をダラダラ語られるわけでもなく、説明不足で存在理由が分からないということもない。Cの目線を意識していると思うのですが、没入感に寄与していたと感じました。
Cについては、あまり書いてしまうと特大ネタバレになってしまうので言及を避けますが、成長がよく描けていました。序盤の孤立とラストの円満が対照的です。最後はほろりとしてしまった。本作のテーマを体現しているキャラでした。
ちなみに、Cの正体は作中で判明するまで分からず。声優好きとか、マニアックな人はすぐに分かったみたいですね。まあ、驚きと興奮が得られたので個人的にはオトクな体験でした。適度な鈍感力、大切にしていきたい。
あ、既存のキャラクターも悪くないですよ。リィンとロイドはちゃんと成長できてえらい(ロイドはラストが気になりましたが)。ただ、リィンルートはやっぱり人数多すぎです。空気と化していたキャラが数人います。とはいえ一応擁護しておくと、クレアやエリゼやレクターをはじめとして、特に影が薄い数名についてはサブエピソードで補完されていました。個人的には、まあ及第点かな。
8. シナリオ・テーマ性
今作はテーマがはっきりしています。この「はっきり」というのは、各ルートで明確に問題提起がなされ、それに対応する締めくくり方になっている、ということです。閃III/IVで気になっていた「とりあえず雰囲気でやってる感」はありませんでした22。これは大きな進歩です。
これも、本作で導入されたクロスストーリーシステムのおかげでしょうか。一つ一つのチャプターが独立して細かくまとまっているおかげで、ダラダラと続くことを回避できています。こういう新たな取り組みに挑戦したことは評価しますし、結果的に上手く機能しているので文句は全くありません。ただ、他の方の感想を覗いていると、一定の条件を満たしてしまうと進行不能になるバグがあるそうで、そこは要修正だと思います。まあいかにもありそうですよね、中盤はチャプター切り替えが頻繁に発生しますから。今後も採用するのであれば、このあたりの境界テストを強化してほしいところです。
さて、総評でも触れましたが、今作のテーマは恐らく「アイデンティティ」なのでしょう。
『リィンルート』では、かつて灰色の騎士として神輿を担がれたリィンが、
『ロイドルート』では、クロスベルの英雄であり象徴となった特務支援課が、
『Cルート』では、歴史の隅に追いやられた者が、それぞれ事件を通して自分たち自身の存在と向き合い、成長していきます。
自分が自分たりえる理由。自分とは何か。何のために戦うのか。そうした哲学的な問いを、各キャラが考え、行動により答えを見出していく様には、零・碧を彷彿とさせる『力強さ』があります。製作者が伝えたいメッセージは、こちらの心へ確かに届きました。プレイ後の今でも、達成感のみならず、物語の結末へのアンサーを考えたくなるような、小説を読み終えた後に近い感覚が残っています。
やっぱりイチオシは『Cルート』ですね。Cの成長も目を見張るものがあるのですが、何より描き方が等身大で感情移入ができるのです。例えばリィンは、下手に異能を持っているせいで感情移入しづらいんですよ。困ってもどうせパワーでゴリ押せるんでしょみたいなね。反対に、Cは才能があるとは言え異能とまでは言えず、あくまで歴史の隅の人間です。リィンやロイドとは違い、『英雄』ではないのですね。それ故に、プレイヤーも共感しやすい。だからこそ、中盤の心情吐露を経たラストシーンが本当に輝くのです。安直な救いがない絶望により、得られた希望が一層輝く! これこそ、私が物語に求め続けているものです。永遠普遍の美と言えます。本当に美しかった。
というか、直感的に感じたのですが、Cルートを書いたのは恐らく今までのライターさんとは別の方ですかね?23 閃の軌跡時代にあった訳の分からない奇妙な当て字や癖もなく、読んでいて心地いい。正直に申し上げて、今までの癖が残る他ルートと比べると、実力差が如実に現れている気がしました。
いや、リィン・ロイドルートも(今作については)悪くなかったですよ? ただ、台詞回しとか展開の使い方にどことなく差を感じるのと、微妙にテーマと結論がズレているような気がしたのですよね。
テーマのズレについて、具体例を挙げます。ロイドルートにおいて、序盤で「特務支援課が、いつの間にか人々の思いに寄り添う組織ではなく、クロスベルの象徴たろうとしてしまった」という点が問題提起され、事件を通してロイドらは支援課の在り方の原点を再確認します。しかし、(これはネタバレというより、みなさんのご想像通りなのであえて書きますが)ラストでクロスベルが再独立を果たした際、ロイドは調印式でスピーチをしてしまうのです。
これを見た際、えっ? と思いました。序盤であれだけ問題提起されていたのは、まさにそういう行為だったんじゃないかと。警察の一部署でしかなかった支援課が、国民の前に代表として、象徴として存在してしまうという原罪が問題だったのではないかと。いくら事件解決をしたとは言え、早速スピーチをして『象徴』となってしまったことに、私は疑問を感じました。何も解決していないような……。
そういうのを見ると、改めて『Cルート』の出来の良さを感じるのです。Cというキャラクターも良いのですが、ズレなくテーマと結論に一貫性があるという点が良い。
願わくば、素晴らしいCルートを書き上げたライターさんに続投してほしいものです。個人的には、次作のメインルートも担ってほしいかな。
そうそう、無限回廊からアクセスできるサブエピソードは良かったです。お気に入りはセドリックの話。『正義』を気取らず、自らの意思と覚悟で『悪』に堕ちていく姿にこそ真理を見いだせてしまいます。誰もが『正しく』あろうとしてしまう現代において、セドリックのような生き方ができる人は果たしてどれだけいることでしょう。親鸞の悪人正機を思い出して、私もこうなりたいなと思ってしまいました。理想はノバルティス博士ですけれど24。
9. ボリューム
総評に書いた通りですが、丁度いいくらいだと思います。個人的には、もうちょっとだけあっても良かったかしら。まあ、長ければいいというわけではないですし、今作は一本で完結しているという点を以て大変よろしい。分割されるよりはよっぽどマシ。
風の噂によると、今後アップデートでサブエピソードが増える可能性があるとのことで、真偽は分かりませんが少しだけ期待しておきます。
10. 雑感
ミニゲームについて
無限回廊ではいくつかミニゲームを楽しめましたが、それについてもさらっと触れておきます。
VM
バーチャルマシン……ではなく、ヴァンテージ・マスターズでしたっけ。これはミニゲームの中で一番好きです。全員を倒して、無事にトロフィーをいただきました。ゲーム性は閃の頃と変わっていないですけれど、カードがちょっと変わったかな。ミュゼは難敵でした。「運ゲーだろこんなの!」と半分キレながら挑戦を繰り返した記憶が。
中盤以降は強カードを揃えて、前半で魔晶石ブースト(マナ上限をガンガン上げる)して、早めに強カードを召喚できれば大体勝てます。ナイトで自軍攻撃力を上げていくとよい。相手の陣地にモンスターが増えてきたら負けを覚悟した方がいいです。大抵マスターカードの強さが不平等なので。
まじかる☆アリサ
ムズすぎ。疑似3Dなのか、奥行きが分かりづらいのが地味に痛い。一面だけクリアして後はやってません。
ポムっと
ぷよ〇よが分からないので(ほとんどやったことない)、これも分かりません。数人だけ倒して放置しました。落ちゲー得意な人は楽しめそう。
軌跡でポン!-ベリル編-
七転八起戦法で倒しました。復習にもなってよかったです。ただ、面白いかと言われると……。
無限回廊の空3rd感
「あ?これ空3rdで見たことある?!」という感じになれて、ちょっとにんまりできました。キューブとかまさに。意味とかあるんでしょうか?
細かなバグ(疑惑)
- 無限回廊の陽炎工房で、『ORBMENT』→『CUSTOMIZE』を選ぶと、リストが空になる
- 試練の扉参加時、ミュゼが着物姿になっていた(という記憶がある。バグかしら?)
海外での盛り上がり
私はTwitterのような薄っぺらい常時参加型SNSが嫌い25なので、ファルコムの情報収集もRedditで行っているのですが26、海外の熱心なファンは日本語版を輸入しているようでした。また、日本語読解も進めているらしく、「この台詞どういう意味?」「こういう意味だよ」という会話があったり、情熱が凄い。海外ファンにも愛されているのを改めて実感しました。早く英語版をリリースしてあげて欲しい。まずは閃IVからですが……。
クロスベルと香港
そういえば、本作は中国語版も同時発売だそうですが27、クロスベルって恐らくモチーフ香港ですよね? この情勢下で発売できたのは凄いと言わざるを得ません。思いっきり作中で『再占領』とか『再独立』とか言ってしまっているわけですけれど、これ中国的には大丈夫なんでしょうか。まあ、今作はまだいいのかもしれませんが、IR情報を読むと零・碧も中国語版が出るそうで。是非香港の人に遊んでもらって、リアル特務支援課を誕生させて欲しい。目指せ大国からの独立。
そろそろ新規勢つらそう
これは今作の問題ではないのですが、軌跡シリーズが長期化しすぎていて、新規勢がつらそうだなと。今作を楽しむためには少なくとも零・碧、閃四部作をプレイしておく必要があります(でないと理解できない)。そして、零を楽しむためには空のプレイが必要で……おっと、これは500時間コースですね。
長期化は弊害も大きいので、そろそろ軌跡シリーズには区切りをつけるべきなんじゃないかな、と思います。今作から軌跡後半戦が始まるらしいですが、数年以内に軌跡シリーズは綺麗に終幕させて、新シリーズを開始していただけると制約も消えて良いんじゃないかなと。『時代に合わせてアップデート』という言葉は傲慢と欺瞞が混じっていて個人的には嫌いですが、それでもある程度はシリーズを変えていかないと、作る側も辛いんじゃないかなと思ったり。
〇の〇〇多すぎ
あくまで体感なのですが、今作だけで割と出た気が。黒の衛兵(言うほど黒じゃないし、どっちかって言うと紫)、零の機神、灰色の騎士……もうちょっとネーミングにこだわっても良さそう。
ティオの影が薄い
零・碧で一番好きなキャラクターだったのですが28……残念。
ランディ、お前……
ランディのラストはおおっとなりました。ただ、TPOはわきまえような。ランディを見たノエルの顔よ……。
まとめ
長々と書いてしまいましたが、まとめると
- 全体的に面白かった! 閃IVを1とすると今作は10くらい。
- Cルートはメチャクチャ良い出来。ライターさんには続投してほしい。
- 今作が出るまでファルコムには不安を抱いていたが、ある程度払拭された。次回作も買います
という感じでしょうか。えー、正直、買いです29。
改稿履歴
- 第一版(発行 : 2020/09/02)
- 第二版(発行 : 同上) / 細かな修正と、ボイスについての記述を追加
- 第三版(発行 : 2020/09/04) / 表現を微修正
- 第四版(発行 : 2020/09/21) / 目次を追加、読みやすいように一部の文の配置とデザインを微調整
- 第五版(発行 : 2020/10/02) / 表現を微修正
背後でガレリア要塞の兵士が倒れて死んでいました。いや、気絶かもしれないですけど。 ↩︎
『Atrocious Raid』という曲ですね。OSTにも収録されていますが、各種ストリーミングサービスや、Youtube Musicでも配信されているようです。公式サイトにリンクがあります。 ↩︎
これについては、去年に私が書いたレビュー記事があるのでお読みいただければ : https://www.clvs7.com/blog/2019/07/30/trails-of-cold-steel-1-2/ ↩︎
零・碧の軌跡がPS4に移植されるのを待っていたため、一年もかかってしまいました。今なら(空さえ調達できれば)一作目からプレイしても、一作あたり50時間前後と考えて大体50*10 = 500時間、一日あたり2時間で休日は少し多めにプレイすれば半年くらいで追いつけると思います。体力が有り余っている学生なら一、二ヶ月でいけるでしょう。ちなみに私の場合、空の軌跡三部作はGOG.comで購入した英語版をプレイしました。英語のRPGも新鮮で楽しかったので、暇な方にはオススメです。 ↩︎
当該シーケンスで流れる『Get Over The Barrier! -Roaring Version-』、全軌跡シリーズのBGMの中で一番好きです。BGM自体もいいのですが、あのシーンを思い出すだけで震えてきます。場面と曲の両方がマッチした最高の作品です。 ↩︎
某ワニとか、皆さん覚えてますか? ↩︎
リプレイ性が高くないRPGのようなジャンルでバッドエンドを実装するのは悪手です。基本的には、ノベルゲームのようにセーブ・ロード・スキップが快適にできる状態だからこそ、エンディング分岐は受け入れられるのではないでしょうか。あるいは、恋愛シミュレーションのように、バッドエンドそのものに意味があるわけでもありません。ただただ冗長な分岐で、IVは最後に冷めてしまいました。 ↩︎
『ふざけるな』を『巫山戯るな』と書く等。 ↩︎
『……ぁ……』はあまりにも有名。 ↩︎
せっかくプレイヤーがお金と時間とやる気を用意して、ゲームを買って、ディスプレイの前に座って、さあやるぞとなってくれたわけですよね? そんな人に対して毎回起動時に、プレイヤーを少なからず不快にさせる内容の『警告』をする必要あります? 残酷描写の警告なら分かりますよ、プレイヤーの益になりますから。でも、私が言っている『警告』は、全くプレイヤーの益にならないもののことです。赤字でデカデカとそういう『警告』を出すメーカーさんもお見掛けしますが、ちょっと傲慢だなと私は思います(どことは言いませんが……)。日本人はプレイヤーの自由や意思を軽視しすぎです。出すなら初回起動時だけにするとか、それくらいの配慮は欲しい。少なくとも赤字bigはあり得ないですよ。 ↩︎
厳密には、NISA等、海外のパブリッシャー経由でのリリースなのでファルコム本体の功績とは言いづらいかもしれませんが、いずれにせよGOGのようなDRMフリーストアへのリリースは許諾しているはずで、プレイヤーのことを考えている姿勢はしっかりと感じます。 ↩︎
作品は長ければいいというものではありません。どう考えても四部作は長すぎです。個人的には、空や零・碧と同じく二部作で十分だったのでは? と思います(厳密に言えば空は三部作ですが、3rdはあくまでファンディスクという認識です)。 ↩︎
正直、ちょっと光のボケが強すぎるかなという印象ですが。モデルの粗を隠すために光らせているのかな? もうちょっとシャープだと見やすくていいかなと感じました。 ↩︎
ソース : https://rpg-fan.jp/archives/2015 。株主総会では結構エグい質問もあったようで。 ↩︎
故に、UnityやUnreal Engineがよく採用されるわけですよね。規模が大きな企業、例えばCAPCOMやEAなどは自前でエンジン持ってますけど、KONAMIはメンテナンスコストを理由にFox Engineをやめちゃいましたし。 ↩︎
遠回しな表現です。直球で書くと『エロい』。 ↩︎
ちなみに、個人的には『性』を前面に押し出されると辛かったりします。だって集中できないじゃないですか……。 ↩︎
端的に言って商業音楽が苦手なんですよ。商業音楽単体を十五分以上聴くと、大抵精神に悪影響が出ます。BGMとかであればいいのですが……。 ↩︎
ノルド高原では大変お世話になりました。 ↩︎
友人に閃の軌跡Iをプレイしてもらったところ「3Dでコマンドバトルは違和感しか感じないんだよな」と言われ、確かになあと納得してしまったことがあります。リアルタイム性を高める方向にシフトするのは割と妥当な気もするのですよね。やりすぎるとただのイースになってしまうので、塩梅だとは思うのですが。 ↩︎
「雰囲気でやってる感」の最たるもの、閃IVのバッドエンド(ノーマルエンド)は最低だと思います。テーマや成長をきっぱり無視したエンドで、アレを見せられた時はゲームに対してキレそうになりました。だって、あのエンドなら四部作必要ないじゃないですか。成長や葛藤は何だったんだと。時間を返せと。結局、自己犠牲で終わりならリィンは閃Iから成長していないとすら言えるでしょう。最終的にトゥルーエンドで解決するわけですが、その分岐の仕方も雑で納得できるものではなく……バッドエンドを見せられた時点で閃IVが個人的な
軌跡歴代最低作品 となりました。まあ、今作ではあのバッドエンドにも意味があったことが(明らかに後付ですが)示唆されるので、存在価値ゼロとは言えませんが……。 ↩︎そういう噂を小耳に挟んだのですが。 ↩︎
あのマッドサイエンティストっぷりが好きです。弟子入りしたい。好き勝手研究して、責任が発生したら全部ノバルティス博士に押し付けたい。成果さえ出れば許してくれそうだし。まあ、私なんかは真っ先に切り捨てられそうですが、最悪ギルバートと一緒に兵士やれば生きていけるんじゃないかなと。 ↩︎
SNSでは、どうして皆さん『正義』を気取りたがるんでしょう? 大して見識もないであろう人が、専門性の高い分野に断定系で物申してみたり、一分くらい考えれば矛盾や問題点に気づく論理を振りかざしてみたり、自分たちの首を締めかねない安易な規制を望んでみたり。碧の軌跡のディーター大統領と同じくらい独善的な気がします。万人が『正義』を追い求めてしまうのはきっとそうなのでしょうけれど、それを他者に押し付けるのは違うはずです。少なくとも、そこには議論がなくてはいけない。多様性を叫びながら、自分たちの意に沿わない多様性を罰そうとしている一部の人々がとても嘆かわしい。人類はもっと哲学を考えるべきなのだと感じます。 ↩︎
零ティオの「敵出現。めんどくさいです… … 」が懐かしい。ああいうダウナー系ボイスは好きですね。私は反出生主義者なので恋愛からほとんど引退しましたが、仮に今後恋をするなら、ティオのように落ち着いた人がいいかな。常時ダウナーだと気が滅入りますけど。 ↩︎
某先生風に。 ↩︎